第1話 妊婦の不安【前編】
原作:夫婦カウンセラー 下木修一郎
監修:弁護士 森上未紗(愛知県弁護士会所属)
作画:ChatGPT
はじめての問題が表示された。
どうやら正解を選ぶタイプのようだ。
彩がもっとも不安だと思うこと。
彩の不安…
ちゃんと考えてこなかったのに、正解できるんだろうか。
俺は不安になりながらも、夫ドリルの[選択肢を見る]を押した。
問題:彩さんが最も不安だと思っていることを以下の選択肢から選んでください。
【あなたもボタンを押してみましょう】
夫ドリル<Level:1>
妊婦の考えられる不安の選択肢を表示します
- 会社にはいつ報告しよう
- 上司に報告したらなんて言われるだろう
- 妊娠アウティングされたらどうしよう
- 流産のリスクはないか心配
- つわりはいつから始まるのだろう
- 妊娠初期の仕事はどこまでやっていいの
- 妊娠初期の運動はどこまでOK?
- 妊娠初期の食事制限は何がある?
- 妊娠初期の薬の服用は大丈夫?
- 妊娠初期の旅行は大丈夫?
- つわりで仕事に支障が出ないか
- 無理すると流産しやすいというけれど
- 無事に産まれるかな
- 妊娠中のアルコールは絶対NG?
- 妊娠中のカフェイン摂取量は?
- 妊娠中のストレス解消法は?
- サプリメントとかいるのかな
- 夫の匂いが嫌になったらどうしよう
- 妊娠中の便秘解消法は?
- 妊娠中の頭痛は大丈夫?
- 妊娠糖尿病の検査結果が心配
- 貧血にならないか心配
- 切迫流産や切迫早産にならないか
- 妊娠高血圧症候群にならないか?
- 羊水検査を受けるべき?
- 体重管理はどうすればいいの
- お腹の赤ちゃんは順調に成長するのかな
- 胎動はいつ頃から感じるの?
- 妊娠中の歯科治療は安全?
- 妊娠中の肌トラブルはどう対処する?
- 妊娠中のむくみ対策は?
- 妊娠中の腰痛対策は?
- 妊娠中の睡眠の質を上げるには?
- 妊娠中の染髪は問題ない?
- インフルエンザの予防接種とかしてもいいの?
- 妊娠中の温泉や入浴方法は?
- 妊娠中の飛行機搭乗は可能?
- 妊娠中の車の運転はいつまでOK?
- 妊娠中のスマホ使用は胎児に影響ある?
- 妊娠中の家事はどこまでやるべき?
- 妊娠中の職場での配慮はどう求める?
- 妊娠中の性生活はいつまでOK?
- 妊娠線ができないか心配
- 胎教は必要?どんなことをすべき?
- 妊娠中の趣味や活動はどこまで続けられる?
- 妊娠中の友人関係はどう変わる?
- 妊娠中の転職は可能?
- 妊娠中の引っ越しは大丈夫?
- 妊娠中のマタニティヨガは効果ある?
- マタニティ用品はいつから必要?
- 出産準備品リストは何を参考にする?
- 出産費用はいくらくらいかかる?
- 出産育児一時金の申請方法は?
- 出産手当金はいくらもらえる?
- 妊婦健診の助成はどうなっている?
- 産前産後休業給付金の申請はどうする?
- 児童手当はいつからもらえる?
- 特別児童扶養手当の対象になる?
- 不妊治療の助成金制度はどうなっている?
- 産休はいつから取得すべき?
- 育休の期間はどのくらいにする?
- うちの会社って育休どうやって申請すればいいのかな
- 私のしたかった仕事どうなるんだろう
- 退職して専業主婦になった方が夫は嬉しいのかな
- 出産後の仕事復帰のタイミングは?
- 家計の見直しはどうすれば
- この家が手狭になるかもしれない
- 持ち家を考える?それとも賃貸?
- 赤ちゃん用品はどこで買うのがいいんだろう
- 出産する病院はどこに
- 子どもの名前はどうしよう
- 性別はどっちでもいいけれど、夫のところはみんな男の子だしな…
- 夫はパパママ教室に来てくれるのか
- 夫は家事を手伝ってくれる?
- 夫にパパの意識は芽生えるのかしら
- 夫が妊娠中に浮気をするという話をよく聞く
- 夫は私と話をする時間をつくってくれるかな
- 夫はひとりで買い物とかできるのかな
- 忙しい夫に頼んでもいいのだろうか
- 体がしんどくて動けなくなったら夫はどう思うのだろう
- 夫が遅くなったときに待ってたほうがいいのかな
- 夫ってどれくらい子育てに参加してくれるんだろう
- 夫は子ども好きかな
- 夫はやっぱり忙しいんだろうなぁ
- 色々頼んじゃ申し訳ないかもだけどどうしよう
- 義両親はどれくらい関わってくるのだろう
- ママ友できるかな
- 妊娠祝いとかもらったらちゃんと返さなやだよな
- 免疫力低下による感染症対策は?
- 出産前の両親学級はいつ受講する?
- 立ち会い出産とかしてくれるのかな
- 出産時の立ち会い者は誰にする?
- 臍帯血保存は必要?
- 出産の痛みはどれくらい?
- 帝王切開になる可能性は?
- 早産のリスクはないか?
- 実家に里帰り出産すべき?
- 産後の体型戻しはいつから始める?
- 母乳育児と人工乳どちらを選ぶ?
- マタニティーブルーになったら夫のメンタルが心配
夫ドリルは天井から床まである選択肢を表示してきた!
「こ、こんなに不安の種類があるのか…?!」
選択肢の多さに一瞬あっけにとられてしまったが、ここで冷静さを欠くわけにはいかない。
よし、上から見てみよう。
1.会社にはいつ報告しよう…すぐに報告すればいいんじゃないのか?めでたいことなのに。
2.上司に報告したらなんて言われるだろう…え?上司は喜んでくれるんじゃないのか?
3.妊娠アウティングされたらどうしよう…アウティング?暴露か。どういう意味だ?
ちょ、ちょっと待て…
産前産後休業給付金?
両親学級?授業参観のことか??
「くそっ!いったいどれが彩の悩みなんだ…」
そのとき、俺は右下に読みにくい字で何か書いてあることに気づいた。
『ヒント』
ヒントがあるのか!?
使いたくないけれど、間違いたくもない。
俺は完璧じゃななければならない。
「くそっ!」
俺はヒントを押した。
すると、夫ドリルの画面が変わり…
彩さんに聞けばいいじゃないですか
「え?」
「聞いていいのか?それはドリルとしてはどうなんだ…」
すると画面が変わり
聞かずに分かるんですか?
夫ドリルとは会話ができるのか!?
いやいや!それより
「聞く…」
俺にとって、分からないことを人に聞くことは抵抗があった。
聞くことは、自分が無知だと言っているようなものだからだ。
そんな俺の考えを察したかのように、夫ドリルはメッセージを表示する
つまらないプライドのせいで
また同じことを繰り返すのですか?
くっ…めちゃくちゃ挑発してくるな。
どういう性格してるんだ、この夫ドリルは…
彩に聞いて、もし
『拓也はそんなことも分からないんだ』
なんて失望されたら…
しかし、また同じことを繰り返すわけにもいかない。
悩んだ末、俺は結論を出した。
「聞くしかない!!」
食事が終わったあと、俺は彩に早速…
き、聞けない…
そもそもなんて聞けばいいんだ!?
安心してくれ!なんて言ったのに、今更どう声をかければいいんだよ。
意外と意気地なしですね
「くそっ!」
性格が悪いなこの夫ドリル。
いったい誰が作ったんだ。
分かったよ、聞けばいいんだろう、聞けば。
「あ、彩、あのさ…」
「はっ、初めての妊娠の不安って具体的にはどういうことなのか説明してくれるカナ?」
尋問ですか
う、うるさい!
「えーと、私は…やっぱり赤ちゃんが無事産まれるかどうかかな。」
「なんだ!そんな心配だったのか!」
「えっ?」
「彩は大きな病気もしたことないし、体も丈夫だよね。年齢もまだ30歳。最近40代で出産した芸能人の話もネットでみたし、職場の人の奥さんも35歳で2人目を産んだって話も聞いた。だから心配しなくても彩なら大丈夫だよ!心配しすぎると体に良くないだろう?そうだ、いい病院をレビューで探して、信頼できるお医者さんに診てもらえればいいよ。俺も調べるし。だから安心して!」
「・・・そうだね、拓也がいるものね」
俺は部屋に戻った。
フッフッフ。不安も分かったし、解決もしたぞ。これで未来がよくなる!
部屋に戻った俺は早速夫ドリルの選択肢から、何の疑いもなく
「無事に産まれるかどうか」
を選んだ。
夫ドリルの画面が赤く…
・・・
「え・・・?」
「不正解…そんなハカな!ちゃんと聞いたぞ!?」
ん??
雷のマーク・・・
「またかー!!!!」
夫ドリルにもこの機能があるのね…
あなたとの会話で
彩さんの答えが
変わってしまいました
答えが変わった?
「ああ、問題が解決したから答えが変わったってことか!?」
彩さんの今の一番の悩みはどれでしょう?
正解できるかな?
答えが全部同じじゃないか。
「夫ドリル、答えを間違えて…」
間違えてない、バカにしてるのか!
「不安を分かってくれない?なんで…」
あなたは問題を解決しようとしましたね
「え?問題は解決しなきゃいけないだろう。」
ええ。ですが、問題を解決していいのは、解決する権利を持っている人のみです。
解決する権利?
なんだそれは?
解決する権利とやらを、俺は持ってないというのか?
まぁそんなに落ち込まずに。
「くっ、ムカつくな…」
では、あなたの得意な仕事で考えてみましょう。
あなたは問題を抱えており、どうしても一人では解決できない状況になった。
そんなとき、あなたはどんな人に頼りますか?
「そりゃ当然、信用できる上司とか、尊敬している先輩になら素直に頼るだろう。経験も実績もあるし。」
そうですね。
あなたが解決して欲しいと思える人。
それが問題を解決する権利を持っている人なのです。
「解決して欲しいと思える人が権利を持っている人?」
では逆に、どんな人に解決されたらイラッとしますか?
解決されたらイラッとするヤツ?うーん…
「例えば、経験ないくせにできそうな事をいうヤツとか、頼んでもないのに教えようとするヤツ…」
ははっ
「ちょ、ちょっとまて!彩は俺の頼れるところが好きだと言ってくれてるんだよ。だから俺は解決する権利はあるはずだ!」
確かに、今まではそうだったのでしょう。
「今までは…?」
お金のことや、政治のこと、新しい情報など、いろいろな知識を持っているあなたは、頼れる存在としてとても魅力的だった。
確かに、なんでも知ってるよね!と言ってくれる。
そう言われて俺はもっと彩にとって頼れる男でいたいと思った。
でも、あなたは妊娠のことについてあまり知らないのでは。
「うっ」
俺は言葉に窮した。
先ほどあなたは彩さんに「40代の芸能人がいる」という話をされていましたね。
では一つ問題を出しましょう。
どんな問題だ…
40代の真ん中、45才の年齢で流産する確率はおよそ何%でしょうか?
参照:日本産科婦人科学会2010年データをもとに厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成
りゅ、流産の確率?
俺は、恐る恐る一つの選択肢を押した。
【さあ、あなたも答えを選びましょう】