今のあなたでは、このミッションを…
クリアすることはできません。
「え?」
第5話 妊娠アウティング
【後編】
原作:夫婦カウンセラー 下木修一郎
監修:弁護士 森上未紗(愛知県弁護士会所属)
作画:ChatGPT
ところで、時間が戻ってびっくりしたでしょう?
おおっ!夫ドリルが話しかけてきた・・・
「夫ドリル〜〜〜いったいどうなってるんだ?」
そんな情けない声を出さないでください。
「だって怖すぎるじゃないか・・・」
とにかく、俺はほっとした。
ほっとしたのもつかの間、我に返った。
「ところで、すべての選択肢を選んだのにクリアできないってどういうことだ?」
今のあなたでは、この問題を解決することはできないということです。
「そんな・・・ずっとループし続けるってことか?」
一つだけ方法があります。
今のあなたに足りないものを手に入れるのです。
「足りないもの?」
それは・・・
「そ、それは・・・」
「覚悟」です。
「覚・・・悟?」
妻をなによりも大切にするという覚悟です。
「そんなこと…彩が大切に決まっているじゃないか」
残念ながら今のあなたは、彩さんにもお母様にも、どちらにもいい顔をしています。
その結果、彩さんの味方にもなれず、彩さんのせいにしてお母様を説得しようとするという、非常に中途半端な行動を取っています。
このような態度は、結果的にふたりの関係を壊し傷つけることに繋がります。
「どちらにもいい顔・・・そんなことは!!」
俺は夫ドリルの言葉を否定しようとした。
でも・・・
「彩だって楽になるじゃん?だからさ、もう少し理解してくれると…。」
俺は彩の味方だっただろうか・・・
「ただ彩がちょっと神経質になってるから…。」
俺は自分の問題として捉えていたのだろうか・・・
俺は何も守ってない。
いや、自分を守ろうとしていただけだ。
「覚悟か・・・」
そんなこと、考えもしなかった。
俺ひとりでは、気付けなかったかもしれない。
母親よりも妻を選ぶという覚悟。
あなた自身の言葉で『妻を守る』という意志を伝える必要があります。
「わかった……俺、今度はちゃんと自分の言葉で母さんに話すよ。」
俺は母親に電話をかけた。
「母さん、お願いがあるんだ。」
母親の声が少し驚いたように変わる。
「どうしたの?」
「彩は今妊娠初期で、ちょっとデリケートな時期なんだ。」
母は何も言わない。
「だから夫として、しっかりと彩を支えようと思う。なので、今はそっとしておいて欲しいんだ。」
母は少しの沈黙の後、静かに答えた。
「そうね…私もつい心配で。でも、彩さんが安心できるようにするのが一番ね。」
「ありがとう母さん、おやすみ。」
電話を切った。
たぶん、自分の言葉で言えた気がする。
「さあ、家へ帰ろう!」
家に戻り、俺は彩に話した。
「今日、母さんに電話して、お願いしたよ。」
「お願い?」
彩は少し緊張しているようにも見える。
「俺が彩を支えるから、今はそっとしておいて欲しいって。」
彩の目に浮かんだのは驚きと安堵が入り混じった感情だった。
「……ありがとう。でも、拓也は大丈夫?」
「うん、俺は彩が一番大切だから。」
「ありがとう。」
ああ、俺はこの笑顔が見たかったんだ・・・
その瞬間、再び夫ドリルのウィンドウがポップアップした。
【ミッション達成】
おめでとうございます。
無事、彩さんの信頼を少し取り戻り、母親との距離感も現時点では調整できました。
少し取り戻し、現時点で調整か・・・
「……タイムリミットがあったおかげで、今回はちゃんと動けたのかもしれない。何もしないで放置してたら、また彩を不安にさせてた。」
あなたは彩さんと新しい家族をつくり、子どもが生まれることで、自動的に父親という立場になります。
しかし、本当の意味で親になるためには・・・
「覚悟を決める、ということだな。」
そうです。
夫になることがどういうことなのか、ちゃんと考えてもいなかった。
前の人生では、経済的に支えることしか考えていかなった。
今回の人生は彩の気持ちを考えたつもりだった。
けれど、夫として妻を支えるという覚悟はしていなかったのかもしれない。
育った家や母親は大切な存在です。
だから、このように中途半端な立場に立ってしまう男性はとても多いのです。
そうだろうな。
やはり親はとても大切だ。
優先順位なんて付けたくないのが正直な気持ちだ。
あなたの母親が紡いでくれた愛のバトンを、今度はあなたが次の世代へとつなぐ番です。
そのためには、妻を守るという覚悟が必要なのです。
それに、あなたが少しくらいお母様の希望を叶えなかったとしても、あなたを嫌いになったりはしないのでは?
「まぁ・・・そうだよな。」
これから先も葛藤することはあるでしょう。
覚悟はすればできるものではなく、積み重ねていくものです。
「分かった。何度も葛藤し、覚悟を積み重ねていくよ。」
「ところで今回、わざと何度も失敗させてたんだな。俺に覚悟をもたせるために。」
さぁ、どうでしょう?
夫ドリル第3話 <終わり>