ははははは・・・
ふふふふふ・・・
先週のつわり騒動を乗り越え、俺たちは分かりあえたんだ。
もう大丈夫、これから何があっても俺は彩を大切にできる。
油断していた。
いや、俺だけじゃない。
男は家庭で油断する生き物なんだ。
きっとそうだ、そうに違いない・・・
第5話 妊娠アウティング
【前編】
原作:夫婦カウンセラー 下木修一郎
監修:弁護士 森上未紗(愛知県弁護士会所属)
作画:ChatGPT
3時間前
電話が鳴った。母からだった。
月に1度くらいのペースで母から電話がかかってくる。
正直そんなに電話してこなくてもと思うのだが、父が仕事で母は一人のことが多く、家で寂しくしていると思うとそうも言えない。
「もしもし」
「あ、もしもし拓ちゃん?」
今日は友人の出版記念パーティらしい。
どうやら会場に早く着きすぎたそうだ。
母は昔からせっかちなところがある。
「そうだ母さん、実は赤ちゃんができてさ・・・」
「あら!そうなの!」
母はとても喜んでいた。ずっと孫の顔が見たいと言ってたからな。
「本当におめでとう!お母さん嬉しいわ!」
母はとても興奮しているようだ。
「彩さん、大丈夫? つわりとか大変じゃないの?」
「うん。いろいろ大変みたいなんだ。」
「それは大変よね…お母さんいろいろ協力するから。」
「うん、ありがとう。彩も喜ぶよ。」
そろそろ会場がオープンしそうだと言って、母は電話を切った。
電話を切った後、俺は昔のことを思い出していた。
父が仕事ばかりで家にいることが少なかった分、専業主婦だった母はいつも俺を淋しくさせまいと一緒にいてくれた。
俺は小さい頃、とても体が弱かった。
いつも病院に通っていた記憶がある。
「大丈夫、大丈夫。拓也は頑張り屋さんだからね。ちゃんとお薬飲んだら、すぐ元気になるわよ。」
「ほんと?」
「もちろんよ。帰りに拓也の好きなビックリ人間チョコ買って帰ろう!」
「やった!」
大学に入って家を離れた頃、よく母がメールを送ってきたな。
「ちゃんとご飯食べてる? 風邪ひいてない? 何かあったらいつでも言ってね。」
「めんどくせ」
ちゃんと返事しなかった。
それでも、母はメールを送ってきていた。
親孝行なんて、何もしてないな。
今日の電話で母親が喜んでいた声を思い出す。
「本当におめでとう!お母さん嬉しいわ!」
「『お母さんうれしいわ』か。いつまでも俺は息子なんだな。」
母さんが親として与えてくれたことを、今度は俺がしていく番だ。
あ・・・・
「あれ……妊娠のこと、彩にまだ話すなって言われてたよな……?」
つい嬉しくて、言ってしまった。
背中に嫌な汗が流れる。
でも、きっと分かってくれるだろう、彩だって母が頼れることが分かればきっと安心するだろうし。
大丈夫だよな。
そして夜、俺は彩に母に伝えたことを言った。