「パパは運動会来ないの?」
「家族のためにがんばってるから来れないのよ」
奏太のとなりで彩が言う。
「パパがんばってね!奏太もがんばる!」
!!!
夢か。
奏太の顔が、思い出せなかった・・・
第2話 妊婦の不安【後編】
原作:夫婦カウンセラー 下木修一郎
監修:弁護士 森上未紗(愛知県弁護士会所属)
作画:ChatGPT
彩はもう起きてるのか。
「夫ドリル、「返事」のことだけど…」
あ、あれ?・・・
え?夫ドリル、なぜ出てこないんだ?
「夫ドリル!?」
おはようございます。朝から騒々しいですね。
夫ドリル、現実だったのか。ほっとした。
「良かった、全部夢かと思った。」
「そうだ!「返事」のことなんだけど…」
私に話すのもいいですが、私がいつも正しいとは限りません。
あなたが考えたこと、彩さんに伝えてみてはいかがでしょうか。
「え?」
まさか夫ドリルがそんな提案をしてくるとは思わなかった。
はっはっは、驚いたでしょう?
高度なテクノロジーで構成されているこの夫ドリルプログラムは、夫婦の問題解決支援を目的としておりますが、クライアントの成長を阻害するような行為、いわゆる依存状態に陥らせるようなことを避けることに対して細心の注意を払うよう何十にもセキュリティが働くように設計されています。もちろんクライアントに対して意思決定を矯正する行為や自分自身をコン・・・
「わーーー!分かった分かった!!」
朝からよく喋るな…
ふん。まあいいでしょう。
自分で考え、行動し、失敗する。
トライ・アンド・エラーでしか得られない経験もありますから。
失敗することもいい経験です。仕事と同じですよ。
失敗前提で話をしやがって。
しかし、仕事と同じと言われると、納得せざるを得ないな。
「わかった、話してくる。」
朝の支度をしてくれている彩に声を掛ける。
「彩、おはよう」
彩の顔を見て挨拶をした。
彩に関心がないと夫ドリルに言われたからな。
「おはよう、拓也。」
朝の挨拶なんて当たり前な事だと思っていたから、あまり意識したことはなかったけれど、彩が心なしか元気ないようにも見える。
いや、もう20年以上前のことだから、いつもこんな感じだったのかもしれない。
でもやっぱり、元気がないように思う。
「彩、体調はどう?」
「え?」
「ほら、妊娠したんだし…」
「あ、うん。まだ初期だから変化なしだよ。」
そういうと、彩は調理を続けた。
俺は、調理をしている彩に語りかけた。
「昨日、妊娠の不安について教えてくれたよね。」
「うん。」
彩は振り向かない。朝の準備で忙しいからか、それとも会話したくないからか、それは分からない。
俺は話を続けた。
「初めての妊娠、子どもが健康に生まれてくるかとても不安だよね。なのに大丈夫だなんて軽々しく言ってしまった。君をもっと不安にさせてしまった。」
彩は振り向かない。
俺が言ってることは間違っているのか?
でも、彩は俺の言葉を聞いてくれている。
それで十分だ。
「俺、彩と妊娠について、いっしょに悩んでいきたい。」
「・・・だって、ふたりの子どもだから。」
彩が、満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきた!!
「うん!」
ニヤけすぎて気持ち悪いですよ…
うわっ!
びっくりした!
あなたの思考は読めるので、声を出さなくても会話ができます
そうなのか!すごいな夫ドリル。
照れますね
全部筒抜けなのか?!それはちょっと…
では私に意識を向けたときだけ反応するように調整しましょう
(なんだ、そんなこともできるのか)
「返事」の大切さ、少し分かった気がする。
そうですか、それは楽しみです。
ぜひ聞かせてください。
返事は「信頼関係」を作るんだな。
信頼関係。
ほう、詳しく聞かせてください。
昨日の彩との話を思い出してみたんだ。
「えーと、私は…やっぱり赤ちゃんが無事産まれるかどうかかな。」
「なんだ!そんな心配だったのか!」
俺は彩の不安を解消したくて、あんな風に返事をした。
でも、彩は逆に不安になってしまった。
俺が彩の気持ちを無視したからだ。
気持ちを無視した?
ああ。
彩の不安を解決しようと、俺は彩の気持ちを無視して不安を抑え込もうとしていたんだと思う。
彩はそんな俺の返事を聞いて、俺のことを信頼できなくなっているんだ。
昨日ことわざを紹介してくれただろ。
「早く行くなら一人で行け、遠くにいくならみんなで行け」
一人でやったほうが早いことは確かにある。
問題に対応するのも、ひとりなら決断も迅速にできる。
でも…
でも?
俺は今朝の夢を思い出していた
「パパは運動会来ないの?」
「家族のためにがんばってルカラ来レナイノヨ」
俺はひとりで行ってしまった。
だから、遠くまでたどり着けなかった。
今度は、一緒に悩んで、考えていく。
もう、彩との関係から逃げない。
ん?・・・聞いてるのか夫ドリル?
あ、なにか言ってました?
えーーーー!!
今の思考、聞いてないのか?
考えれば聞こえるんじゃないのかよ…
はっはっは。
冗談ですよ。
とても素敵な気づきではないですか。
もてあそびやがって…。
コミュニケーションでもっとも大事であり難しいことは、相手の言葉を聞くことです。
特に自分が分かっていると感じたり、違うと感じると、聞くことはとても難しくなります
確かに、聞くのは難しいな…
問題解決に最短距離で到達するように話してしまう。
すぐに答えられることは、高い能力を持っている証明をしている気分になるし。
実際、俺より仕事のできるやつはいなかったからな!
ではその高い能力を、今度は聞く方に使ってみては?
聞く方に?
なるほど。
よし、任せておけ。
聞き上手の拓也様になってやるよ。
ほっほっほ。楽しみですね。
元社長だもん、色々分かるから…聞くのしんどい!
やれやれ。先は長いですね…
【夫ドリル 第1話・完】
次回予告
つわりに苦しむ彩に、俺はこんな風に言ってたのか。
全然覚えてない…
第2話の公開情報は
メルマガ・公式LINEから。
ぜひ登録してね!